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銀製品を彩る黒のコントラスト:ニエロ象嵌の魅力

「ニエロ象嵌」とは?

アンティーク銀器には様々な装飾技法がありますが、その中に「ニエロ象嵌」と呼ばれる装飾技法があります。

「ニエロ」とはラテン語の「黒い」という意味の言葉で、シルバーと黒のコントラストが美しい装飾技法です。

この記事では「ニエロ象嵌」について、その魅力や技法、歴史などを詳しく解説してまいります。

 

銀製品の様々な装飾技法については別記事にまとめていますので、ご参照ください。

【ブログ記事】アンティークシルバーの装飾技法


1.ニエロ象嵌の特徴

ニエロ象嵌の最大の特徴は、銀の輝きと硫化金属の黒色との間に生まれるコントラストです。このコントラストは、装飾に深みと立体感を与え複雑な文様や図柄を際立たせます。
土台となる金属は銀以外の場合もありますが、コントラストが美しい銀製品の装飾技法として使われることが多いです。

また、ニエロは微細な溝にも充填可能なため、とても精緻な装飾を施すことができます。熟練した職人の手によって、幾何学文様、植物文様、人物像など、多様なモチーフの表現が可能です。

ニエロ象嵌に金メッキが組み合わされ、シルバー、ブラック、ゴールドの3色の組み合わされたものも多く見られます。


2.ニエロ象嵌の技法

ニエロ象嵌の工程は、熟練した職人の技と知識を必要とする非常に複雑なもので、以下のような工程で加工されます。

文様の彫刻:
銀の表面に文様を鏨(たがね)や彫刻刀を用いて手作業で彫刻します。

ニエロの調合:
「銀、銅、鉛」などを配合し、硫黄と反応させて黒い合金を生成します。
ニエロの組成は時代や地域によって異なり、ローマ時代のプリニウスは鉛を含まない配合を記述していますが、それ以降は鉛を含むものが主流となりました。

ニエロの充填:
彫刻された溝にニエロの粉末を丁寧に充填します。
微細な溝には細い針などを用いて緻密な作業を行います。

焼成:
ニエロを充填した銀器を加熱し、ニエロを溶かして溝に定着させます。
焼成温度や時間は、ニエロの組成や銀器の形状によって調整されます。

研磨と仕上げ:
焼成後、銀器の表面を研磨し、余分なニエロを除去します。最後に必要に応じて磨きをかけ光沢をほどこします。

 

3.ニエロ象嵌の歴史

ニエロ象嵌の歴史は古く、古代エジプトに起源を持つとされています。
その後、ギリシャ、ローマ、ビザンツ帝国を通じてヨーロッパ各地に伝播しました。

古代:
古代エジプトやミケーネ文明において、ニエロ象嵌は装身具や祭器の装飾に用いられています。

ローマ時代:
プリニウスの「博物誌」には、ニエロの製法に関する記述が見られます。

中世ヨーロッパ:
フランス、イタリア、キエフ公大国などで教会の祭器や貴族の装身具に、ニエロ象嵌が広く用いられました。アングロ・サクソンの指輪など、精緻な作品が現存しています。

ルネサンス期:
一時的に忘れられた技法となっていましたが、ベンヴェヌート・チェッリーニによってニエロ象嵌の技術が復興され、より洗練された作品が制作されました。

18-19世紀:
ロシアのトゥーラ地方を中心にニエロ装飾の銀製品が発展し、19世紀末から20世紀初頭ごろのアール・ヌーヴォー期には自然をモチーフとしたニエロ装飾の銀製品がヨーロッパ全体で流行しています。

20世紀:
タイでニエロ細工の装身具が作られるようになり、アメリカ兵が帰国する際の土産物として人気を博しました

現代:
フランスやロシアの高級装飾品において、ニエロ象嵌が受け継がれています。


まとめ

ニエロ象嵌は、銀製品に黒色のコントラストを与えるとても特徴的な装飾技法です。
その歴史は古代に遡り、時代や地域によって異なる特徴があります。

比較的時代が新しくたくさん作られていた帝政ロシア時代のものは、革命などの混乱により散逸し市場に出にくく、合金部分が摩耗により剥がれやすく綺麗な状態で残っているものが少ないです。

状態の良いものはなかなか見つけにくいですが、店主である私が個人的にとても大好きな装飾技法なので、良いものを見つけたら積極的に仕入れるようにしています。



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